特許法第35条相当対価訴訟について

特許法第35条についての当社の意見

平成16年11月29日
日亜化学工業株式会社

平成16年1月30日、東京地方裁判所において、当社元従業員による特許(第2628404号)を受ける権利の承継に関する相当対価請求に対して判決が下り、相当対価として600億円を超える金額が認定されました。

特許法第35条に基づく上記原判決の相当対価の算定について当社が誤りと信ずる点は、現在係争中の控訴審(東京高等裁判所 平成16年(ネ)第962号)において指摘しておりますが、当社はこのような判決を導きうる特許法第35条の相当対価の規定そのものを廃止するべきであると考えます。

研究開発に取り組む企業は、それぞれの研究開発テーマについて、設備、材料などに投資し、研究者を雇用して研究開発を行います。革新的な研究開発テーマであるほど失敗する可能性が高く、失敗すれば投資した資金は戻ってこないことになります。 また、たとえ研究開発に成功し、特許を取得したとしても、それだけで利益を得ることはできません。事業化するメリットの高い技術の特許であれば、他社は特許回避する、または無効審判を起こして無効化するというアクションを取るなどの手段を講ずるので、特許で事業が守られるという保証はありません。また製薬などの一部業界を除けば、ひとつの製品に多数の特許が使われることとなります。実際当社もLED製品について数百件の特許出願を行っておりますし、その多くが実際の製品に使用されています。また当社の同じLED製品について複数の他社特許侵害を主張されてきました。つまり自らの特許を実施して事業化を行っても、常に他社特許侵害となる可能性は消えないのです。 さらに事業化(製品の製造・販売)を行うとなれば製造設備、要員、販売体制の整備などが必要ですが、それらに投資した結果、特許が無効になる、更に優れた技術が開発され、自社技術が陳腐化するなどのリスクがあります。実際に当社が1993年末に発表した青色LEDより明るい製品は、1995年には他社から発売されましたし、2004年には最初の製品の20倍の出力の製品も他社から販売されています。

このように先行投資リスクを負い、従業員一丸となって熾烈な技術開発競争、販売競争、特許係争を生き残る努力を続けてきた当社にとって、数百億円を1件の特許の発明者に払えなどという判決は、到底承服できるものではありません。そもそも特許出願時点、あるいは特許成立時点で、十数年後までに莫大な利益を得るかもしれないから、という理由で数百億円を支払えと言われれば、ベンチャー企業に限らず、多くの企業が開発成果を特許化し、それを事業に活かすなどということは不可能となってしまいます。

当社は研究者に対して、やりがいを感じ、思う存分研究開発に専念できるような環境を用意する努力を続けてきました。それは優れた研究開発成果を得ることが企業にとって不可欠であるからです。研究者を搾取して低い待遇を押しつければ、当然その研究者はその企業を去るでしょう。そうすればその企業は優れた研究成果を得る機会を失うことになります。仮に発明の対価によってであれ、その他の処遇によってであれ、研究者に満足を与えられない企業は人材の獲得・維持競争に敗れ、やがて研究開発競争にも敗れることになるでしょう。特許の譲渡に相当の対価を支払えと法律で強制しなくとも、企業は従業員に対して自らがベストと思う処遇をするよう、市場原理が働くのです。

当社はこのように特許法第35条3項乃至5項(旧法における3項及び4項)に定める相当対価の規定は、企業の実態と全く乖離した非常識な司法判断を生む原因であり、且つ必要のないものであると考えております。