特許法第35条相当対価訴訟について

控訴理由書の骨子

平成16年4月22日
日亜化学工業株式会社

1 本件の基本的争点は、特許法35条の解釈とその具体的適用である。同条3項は、企業が従業員の行った特許発明を取得する場合、「相当の対価」を支払うことを規定し、同条4項は、「相当の対価」を算定するに当たっては、その発明から企業が受けるべき利益の額をプラスの要素とし、企業が発明に貢献した程度をマイナスの要素として、考慮することを規定している。

2 そこで、その発明から企業が受けるべき利益の額を算定するには、まず、その発明がどの程度の価値を有するものであるかが認定されなければならない。
 原判決は、本件特許発明の技術的範囲につき異例に広汎な認定を行った上、その価値を著しく過大評価し、高輝度の青色LEDの製造において、本件特許発明が基本的中心的な役割を担ったと認定しているが、それは明らかに誤りである。
 高輝度の青色LEDの製造のための技術は、第1に、電気を効率良く光に換える技術と、第2に、その光を効率よく外部に取り出す技術の2つに大別されるが、本件特許発明の技術は、前者の電気を効率よく光に換えることに関係する数多くの技術の1つに過ぎない過渡的なものであり、原判決が繰返し強調するような稀有の発明とは程遠いものである。現に控訴人会社は本件特許発明を使用していないし、後述のクロスライセンス契約により控訴人会社から本件特許発明をライセンスされた競合他社もまた、控訴人会社の知る限り、本件特許発明は使用していない。

3 次に、原判決は、控訴人会社が本件特許発明から受けるべき利益を算定する要素として、総売上高、そのうちの本件特許発明の寄与による超過売上高、中間利息控除の基準時、他社に特許実施を許諾した場合の実施料率を挙げてそれぞれ認定しているが、本件特許発明の著しい過大評価に引きずられ、これらのいずれの認定においても誤っている。
 例えば、売上高に白色LEDの売上全部を入れている。また実施料率を20%としているが、半導体業界の一般的実施料率1%とあまりにもかけ離れており、全く非現実的である。
 また、原判決は控訴人会社が2002年に内外の複数の競合企業との包括的パテント・クロスライセンスにより、本件特許をこれら企業にライセンスしていることを看過し、控訴人会社は未だかつて本件特許を他社にライセンスしたことはないと完全に誤った事実を認定している。そしてそれを前提に「相当の対価」の算定方式を選択するという誤りを犯している。

4 さらに、原判決は、控訴人会社が本件特許発明に貢献した程度を極めて低く認定している点においても、誤っている。
例えば、原判決は、被控訴人が、地方の小企業の貧弱な研究環境の下で、独力で、本件特許発明をしたと認定しているが、事実は全く異なる。控訴人会社は、一貫した方針に基づいて、被控訴人を留学させて技術の習得を命じ、帰国に備えて、大企業の中央研究所に優るとも劣らない設備を整えていたのである。このような貢献なしに本件発明は生まれ得なかった。また、原判決は、控訴人会社の青色LEDの事業化にリスク投資等多大の貢献を行ったことを全く考慮しないという誤りを犯している。

5 原判決は、以上のような多くの誤りを重ねた結果、「相当の対価」を604億円を上回る額であると算定した。しかしその支払時期とされる平成9年における控訴人会社の当期利益は32億円に過ぎない。控訴人会社が当時604億円の支払を命じられたならば、控訴人会社としては、事業経営が著しく困難になるに止まらず、倒産するほかなかったことになる。

6 特許制度全体の趣旨は、あくまでも企業の存続と発展を前提として、発明を奨励し、特許法1条に定める産業の発達に寄与することにある。そして、特許法35条の趣旨は、最高裁判決の示すように、使用者と従業者のそれぞれの利益の保護と衡平の理念による両者の利害の調整にある。原判決は、従業員の保護に走るあまり、わが国における企業の研究開発の縮小という深刻な事態をもたらし、技術立国、知財立国を妨げることになりかねないのであり、ぜひとも是正されなければならない。