ニュースルーム

TOP > ニュースルーム > プレスリリース > 紫外線(UV)感受性評価のためのLED照射装置の開発

2023.5.30

紫外線(UV)感受性評価のためのLED照射装置の開発

不活化評価の標準化にむけて

■ポイント
・微生物の不活化など紫外線(UV)感受性評価のためのLED照射装置を開発。
・UV感受性評価に不確かさをもたらすLED特性や装置構造などの各要件を考慮した照射装置。
・ピーク波長250nmから365nmまでUV LEDの照射が可能。
・これによりUV LEDによる微生物の不活化効果などUV感受性評価について、統合的な評価を実施することを可能とし、感染症対策機器など紫外線応用機器の製品化を助ける。

■概要
日亜化学工業株式会社【代表取締役社長 小川 裕義】(以下「日亜化学工業」という)は、微生物不活化評価などのUV感受性評価のためのLED照射装置を開発いたしました。
本照射装置は紫外線による微生物の不活化などUV感受性評価を高い精度で行えるように、LEDの電気温度特性、照射面の放射照度、照度分布、照射時間、光線角度、周辺物質の反射、試料の温度などを考慮した設計となっており、照射光源となる紫外線LEDについてはピーク波長250nmから365nmまで合計13種類の選択が可能です。なお、この照射装置は国立大学法人 徳島大学大学院医歯薬学研究部 微生物防除研究分野にて微生物の紫外線感受性評価に使用され、結果の一部は以下の学会で発表される予定です。
2023年6月15日~19日 ASM microbe 2023(Houston, Texas, USA)
2023年7月9日~13日 FEMS2023(Hamburg, Germany)
2023年8月29日~30日 日本防菌防黴学会 第50回年次大会(Osaka, Japan)


開発したLED照射装置の外観写真 (左:電源装置、中央:タイマー、右:照射装置)

■開発の社会的背景
紫外線(UV)を用いた微生物不活化は、水銀ランプ、波長可変レーザー、発光ダイオード(LED)等を用いてこれまで盛んに研究が行われてきました。特に近年、紫外線LED(UV LED)は様々な波長の開発が進んだことや、小型のサイズを活かして多様な機器に組み込める利便性もあり、感染症対策機器などの衛生管理手段として注目が集まっています。しかしながらUV LEDに適した評価システムや方法が確立されていないため研究毎に照射条件が異なっています。その結果、微生物の不活化効果について統合した評価ができず混乱が生じています。そこで標準化された照射装置および評価法が必要と考え、照射条件を厳密に踏まえたUV LED照射装置を開発しました。また多様な波長のUV LEDを比較できるよう250nmから365nmまで複数のピーク波長のLEDを選択し評価をすることが可能となっています。

■研究の内容
UV感受性評価は、主に放射照度と照射時間の積である積算光量(UV Dose)にたいして対象物がどのように変化したかを評価するため、対象面の放射照度と、照射時間を正確に把握することが必要となります。そのため対象面の放射照度が安定かつ照度分布が均一であることや、照射時間が正確にコントロールできることが求められます。
このLED照射装置の開発を進めるにあたって、図1に示すような各要因が評価結果に不確かさをもたらすと考えました。例えばUV LEDは、ジャンクション温度と言われる発光素子内部の温度によって出力が変化しますが、本照射装置はLED配置部に水冷ヒートシンクを備えており温度上昇を抑えることが可能です。その際、ピーク波長の異なるUV LEDは、電気温度特性が波長ごとに異なる可能性がありますが、本研究では各波長のLED特性をそれぞれ個別に測定し、それらを踏まえた照射装置とすることで250nmから365nmまでの幅広い波長域で信頼性の高いUV感受性評価を行うことが可能となっています。(図2)
また、放射照度の均斉度、光線角度、周辺・背面素材の反射などの要因については、要件を満たしたものと満たしていないものとで実験条件を設定し、それぞれ比較を行うことで精度の高いUV感受性評価ができる条件を確認しました。その結果、対象物に対する放射照度分布がより均一で機構内部の反射や迷光の影響がない構造としました。対象物に対する放射照射分布は図3で示すように、φ35㎜の対象範囲において約98%の均斉度となっています。
こうして今回開発したLED照射装置は、LEDの電気温度特性、照射面の放射照度、照度分布、照射時間、光線角度、周辺物質の反射、試料の温度などの要因をすべて考慮した設計となっています。


図1.照射装置に求められる要件と開発したLED照射装置の概略図


図2.選択可能なUV LEDの発光スペクトルと各波長の温度特性


図3.照射面の照度分布

■ 今後の予定
今後、国立大学法人徳島大学との共同研究講座「微生物防除研究分野(高橋章教授)」において、本照射装置を使った各種微生物の不活化評価を実施する予定です。これにより人の生活空間における各種微生物について、対象や用途毎に適したLEDの選定や機器の設計、照射方法の検討が進み、感染症対策機器などの製品化を助けることができると考えます。
また、本装置は微生物の不活化に限らず、紫外線が物質、生物、生体に作用して生じる様々な効果を波長別に評価することを可能とし、多様な分野の社会的な紫外線利用の検討に役立つと考えています。 今後は各分野の対象物に応じた照射装置の設計最適化を図り活用することで、紫外線の応用分野を拡大し、様々な社会課題を解決する一助になればと考えています。

【用語の説明】
・紫外線:可視光線より波長が短く、一般的に10~400nmの波長をもつ電磁波
・紫外線による不活化:紫外線を照射する事で、細菌や病原性微生物が増殖できなくする(感染性を失わせる)効果
・紫外線感受性評価:紫外線が物質、生物、生体に作用して生じる効果の評価
・放射照度:放射を受ける面の単位面積あたりに入射する放射束
・積算光量:放射照度と照射時間の積。単位はJ/m2で表され、放射露光量と同義
・照度(放射照度)の均斉度:ある面における照度(放射照度)のむらを表す値。本文では平均照度の最大照度に対する比

本件に関するお問い合わせ先

日亜化学工業株式会社
広報担当
代表TEL:0884-22-2311
FAX:0884-23-7717